< 高橋友一 先生 > 卒業生へ贈る言葉

このたび,名城大学 理工学部 情報工学科 高橋友一 教授が,令和元年度をもちましてご退任されます.

情報工学科 卒業生に贈る言葉を頂戴しましたので,以下に掲載いたします.

皆さん,ご卒業おめでとうございます.
この3月に私も17年間勤務した名城大学を卒業します.昨年ノーベル化学賞を受賞された吉野先生が「小学校の先生の勧めで読んだ」として挙げられた「ロウソクの科学」に関連して話をさせて頂きます.

「ロウソクの科学」は,2016年に医学生理学賞された大隅良典先生も受賞した時に,小学校の時に夢中になって読んだと紹介された本です(今回,岩波文庫版は「ノーベル賞2冠!」の受賞記念の帯をつけて販売しています).著者マイケル・ファラデーがロウソクを題材に講演した内容をまとめたもので,皆さんの中にも読んだ人がいると思います.

ファラデーは,電磁気学の創始者とも言われています.私が担当した電磁気学Iを履修した人は,1回目の講義時に見たマクスウェルの紹介ビデオにファラデーの話があった事を思い出して下さい.電磁気学IIを履修した人は同じく1回目の講義では, 1994年の「金曜講話」(*1)で外村彰博士がファラデーの磁束線のデモや電子顕微鏡で2次元の干渉模様の形成過程を説明している動画(*2)を紹介しました.
電磁気学は情報と無関係と思って電磁気学を履修しなかった人の為に,少し説明すると,無線LANの担い手である電波(電磁波)は電磁気学に関係しています.さらに,量子コンピュータや量子通信の基礎になる量子力学を理解する上で,電磁気学は大事な学問です.
*1: 金曜講話は,1825年にファラデーが英国王立研究所で一般向けに先端科学を紹介することを目的として始めた.「ロウソクの科学」は,ファラデーが金曜講話での講演内容をまとめたもの.
*2: 学科HPの電磁気I,IIに両方の画像がリンクされています.時間があればみてください.外村博士の講義では日本語版で紹介しましたが.公開されて動画は英語版しか見当たりません.

さて,皆さんは,ロウソクに火をつけた事,ロウソクの火が燃えているのを見た事がありますか?
仏事でロウソクを使用する機会がなければ,多分,ロウソクに触れることのない皆さんが「ロウソクの科学」を読んでも,昭和以前の人と同じような感激をもつ事は難しいと思います.
ロウソクつながりで話をすると,同じことが古典落語「死神」(*3)にも当てはまると思います.この落語,日常生活でロウソクに触れる機会が無いと実感がわかないと思います.
*3:「死神」を知らない人は,「落語 死神」でネット検索してください.YouTube,解説が沢山出てきます.例えば,http://www.joqr.co.jp/article/detail/rakugo_shinigami.php

私なりに,「死神」を今風にアレンジしてみました.
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死神のところでもロウソクが手に入らなくなり,LEDランプに取り替えることになりました.ロウソクに比べLEDランプは長持ちする結果,こちらの世界の平均寿命が100歳の大台にのりました.
多くの人が健康寿命を長くしピンピンコロリ,即ち「死神が来る時はサーと枕元にくる.足元に長く居座られ長患いになることだけは御免願って」この世とおさらばする事を望むようになりました.
あちらの世界では,長患いの人が増え死神が足元にいる時間が長くなった結果,死神の長時間労働が課題となっていました.
親の介護に疲れた男がソファーに横になった時,窓からスーと冷たい風が…気づくと見知らぬ若者が足元に立っていました.
男は新顔の介護ヘルパーさんかと思って「お世話になっています.よろしくお願いします.」と挨拶をしました.
若者,「私,死神なんです.足元にお邪魔させていただいています.」

男と若者は,どちらかともなく話を始めます.そのうち,こちらのピンピンコロリの社会を実現する事と死神の世界における労働問題の解決がWinWinの関係にあることに気づきます.
男と死神はロウソクからLED電球に切り替わった時の平均寿命(85歳)以上の人の足元に死神がいる時に限り,使用できる「死神不要の呪文使用許諾権の契約」を結びます.

男は,訪問健康アドバイザーとして商売を始めます.検査も薬もなしにアドバイスだけで,初日にベットから起き上がり,家の中を歩くようになる.しかも,料金はアドバイスの効果を確認した後の支払いですから引く手あまたです. ある時,90歳の依頼者のところに行くと,ベットに寝ていたのは依頼者の60歳になる子供でした.見ると枕元に死神が座っています.
呪文使用の適用外ですから「残念ですが…」と言って帰ろうとした時,親から「この子は,若い頃にプログラミングしたゲームが大当たりして大金持ちになった.駄目でも構わない.せめて,最後にアドバイスを頂けないでしょうか.」と多額の礼金とともに懇願されました.
礼金に目が眩んだ男は,死神を足元に移動させる方法を考え始めました.

ふと,死神を見ると昔流行したゲームをしています.男はその頃,画面に表示されるキャラクターを捕まえるゲームに夢中だった自分を思い出しました.「そうだ!」キャラクターを足元に表示してやれば,死神はゲームと勘違いして立ち上がるかもしれない!
突然現れたゲームキャラクターを見た死神は,思わず立ち上がって足元に移動する.その時,男は呪文で見事に死神を追い払いました.

怒った死神は,帰宅途中の男を自分の部屋に連れていきます.
その部屋は赤から青色のLED電球が輝き,まるで虹の世界です.
「今,こっちで赤い電球がつきました.」
「それは,今,赤ちゃんが生まれたんだ.」
「そっちの青い電球が静かに切れました」
「それは,亡くなった人がいるんだよ.」
そう,ここにあるLED電球は電池の残量に応じて光の波長が変わる.最初は赤,時間とともに残量が少なくなるにつれ緑,青と色が変化する.残量が3%を下回ると人間の目では見えない紫外線になる.すなわち,人生の終わりということになる.

「ここに,青さが増していく電球があるだろう.それがお前の寿命を示す電球さ.先程,俺を騙して呪文をかけただろう.それで,その人の電球についていた乾電池とお前さんの電球の乾電池が入れ替わった.その結果,お前さんの電球の光はもうじき紫外線に… 」
それを聞いた男はびっくり仰天.
「わー,命が助かるならなんでもするから,お助け… 」
「仕方ねえなー.ここに,単三乾電池がある.これをお前のLEDに繋がっている単一電池と上手く入れ替えることができれば助かるかもしれん.」といって,男に単三の乾電池を渡す.
「知っての通り,単一電池と単三電池は,長さは同じでも太さが違う.うまくケース入れないと紫外線に変わるよ…」
「待ってくれ,手を離すと電池が落ちる…手が震える.」
「早くしないと…ほーら,見えなくなった.」
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如何でした?
LEDと名城大学といえば,赤崎先生と天野先生ですね.皆さん,校友会館にあるお二人の記念室に行かれたことはありますか?
本物(ノーベル財団から受賞者に3個まで贈られるレプリカの1組)が飾ってあります.行った事のない人は,是非,卒業まで行ってノーベル賞のメダル・賞状と関連の賞を見てください.ノーベル賞の賞状は,普通にイメージする賞状とは異なっているのでビックリすると思います.本物を身近に見ることができるのは,名城大学に在学した者のメリットです.

神様といえば,死神より幸福をもたらして神様の方がいいですね.幸福の神様には前髪しかないと言われています.皆さん,幸福の神様の前髪を掴むために,本物に触れる機会,時間を大切にして,豊かな人生を送るようにして下さい.